10月15日としまセンタースクエアで講演会「意外と知らないお口と認知症の深い関係」を聴講しました。講演内容は以下の通りです。
本講演では、仏教伝来や江戸時代の歴史的背景から現代の最新医学的知見に至るまで、「口腔の健康」が持つ多角的な重要性が解説されました。歯や咀嚼機能の維持は、単に「歯を残す」ことにとどまらず、脳機能の活性化、認知機能低下や認知症の発症予防、精神的健康(オキシトシンの分泌等)、誤嚥性肺炎の防止、そして全身のフレイル予防と密接に結びついています。しっかり噛んで食べることや、人との楽しいコミュニケーションを通じた社会参加が、健康寿命の延伸と尊厳ある豊かな生活(ウェルビーイング)の維持に不可欠であることが強調されました。
主なポイントと重要点
1. 口腔ケアの歴史的変遷と健康観
- 歴史的背景: 仏教伝来時の「歯木(しぼく)」による歯磨きは、他者へのエチケット(口臭予防)や朝の覚醒作用として普及し、日本では柳を使った「楊枝」へ発展しました。
- 思想と教訓: 貝原益軒の『養生訓』や渋沢栄一の言葉にもあるように、口は「万病の入り口」であると同時に「他者への慈しみや福祉を生み出す出口」として古くから重視されてきました。
2. 予防の経済性と全身疾患(NCDs)への影響
- 経済性: インプラントや補綴物などの歯科治療には高額な費用がかかりますが、日常のセルフケア(歯ブラシや歯磨き粉)は低コストで最大の予防効果を発揮します。
- 全身への波及: 口腔環境の悪化や慢性的な歯周病は、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、動脈硬化、骨粗鬆症などの非感染性疾患(NCDs)や筋肉の衰え(フレイル)と直結しています。
3. 「噛むこと」と脳機能・栄養・ホルモンのメカニズム
- 脳への刺激: 脳神経12本中7本が口腔に関与しており、咀嚼や味覚の刺激は脳血流をダイナミックに促進します。
- 食生活の質と栄養: 柔らかい食品に偏ると水分が多くなり、満腹感の割にタンパク質や食物繊維(野菜・海藻・肉類など)が不足しやすくなります。しっかり噛んでゆっくり食べることで、血糖値の急上昇を防ぎ、満足感と健康を維持できます。
- 愛情ホルモン「オキシトシン」: 親しい人との楽しい食事や会話、他者への親切な行動はオキシトシン分泌を促し、不安の軽減や認知機能低下の抑制に寄与します。一方で、歯周病放置は関連遺伝子の発現低下につながる可能性が示唆されています。
4. 歯周病と認知症・オーラルフレイルの連鎖
- 生涯続くリスク: 歯が多く残る現代のシニア世代だからこそ、歯周病(歯肉のただれ・出血)のリスクは継続します。長年放置された歯周病菌(ジンジバリス菌、トレポネーマ等)や慢性炎症は血流を介して脳に到達し、認知機能低下・認知症発症に悪影響を与えます。
- 悪循環の防止: 口の痛みや噛みにくさは慢性ストレスとなり、生活意欲の低下や外出・買い物の減少(頭を使う機会の喪失)を招きます。歯を失った場合でも、義歯(入れ歯)を適切に装着して咀嚼刺激を維持することが認知機能低下の予防に有効です。
- 受診慣れの重要性: 認知症が進行すると口のケアを拒絶しがちになるため、元気なうちから定期受診をして「口を触られることに慣れておく」必要があります。
5. 誤嚥性肺炎のメカニズムとバイオフィルムの機械的除去
- 発症の3要素: 誤嚥性肺炎は「口腔内細菌の増加」「免疫力・抵抗力の低下」「誤嚥・咳反射の低下」が重なることで発症します。一度肺炎を起こして絶食・安静になると喉や全身の筋肉が急激に衰えるため、最も即効性があり容易に対処できる「歯磨きによる細菌数の削減」が極めて重要です。
- 物理的清掃の必須性: 細菌が集まって形成するネバネバした膜(バイオフィルム)やカビは、洗剤(うがい薬等)だけでは溶かせないため、歯ブラシの毛先で物理的にこすり落とす必要があります。
- 災害時・生活環境のリスク: コロナ禍でのマスク生活や会話減少、災害避難所などでの口腔ケアの怠りは誤嚥性肺炎リスクを急増させるため、非常時のケア意識が不可欠です。
6. 脳と心の健康を支える栄養素
- オメガ3系脂肪酸: サバやマグロなどの青魚の脂に多く含まれ、生食(刺身)での摂取が効果的。
- ビタミンB6: 肉、魚、豆類、香味野菜(シソ、レモンなど)に含まれ、心と頭の健康維持に寄与。
重要な引用
- 「災いは口より出でて、病は口より入る」—— 貝原益軒『養生訓』より
- 「口舌は実に災いの起こる門でもあるが、また福祉の生ずる門でもある」—— 渋沢栄一の言葉より
- 「歯科治療には費用がかかるが、口の健康には費用がかからない」
- 「過去のことは変えられないけれど、今からだって変えられること、今から始められることがあります。……手遅れって思う必要はありません。今からやればいいんです」
- 「柔らかい食べ物って水っぽいんですよ。……いっぱい食べてお腹いっぱいになってるはずなんだけど、実は栄養あんまり取れてないのが柔らかい食べ物なんです」
- 「硬いものを食べられる人は、それがちょっと無理という人よりも健康寿命が2〜3歳違う」
- 「歯があるから歯周病とのお付き合いが終わらないんです」
- 「ほっとくとまずいのが、最近言われたのがね、歯茎の慢性的な炎症が認知症の発症に影響してたらしいよ。特に今血出てるっていうことよりも、前からほったらかしてたやつが悪いぞ」
- 「誤嚥性肺炎の原因というのは、この3つの輪が重なったところ……どこでも減らせると誤嚥性肺炎になりにくいんですよ。どれ減らす一番簡単なのが歯磨きなんです」
- 「やりたいことをやるための資源が健康です……快適に食べるということは生きる希望だし、健やかなお口というのが皆さんがやりたいことをやれるという状況を支えます。尊厳を支えると言ってもいいと思います」
- 「他の人にいいことをしてあげたって思うことが、さっきのオキシトシンを高めるわけです。若い人に会ったら『あんた今からやんなよ』って言ってあげてください」
聴衆が適用すべきアクションポイント
- 毎日の物理的ブラッシングの徹底(バイオフィルムの除去):
- うがい薬だけに頼らず、歯ブラシを用いて物理的に歯の表面や歯周ポケットのバイオフィルム(細菌の膜)をしっかりこすり落とし、低コストで最大の予防効果を得る。
- 症状がなくても定期的な歯科受診とメンテナンスを継続する:
- 痛みを我慢せず、早期治療と定期的なプロケアを受ける。また、将来的な認知機能低下に備えて日頃から「他人に口を触られること」に慣れておく。
- 歯を喪失している場合は、義歯を適切に作成・装着して咀嚼機能を維持する。
- 噛みごたえと栄養バランスを意識した食事習慣:
- 柔らかい食品ばかりに偏らず、野菜・海藻・肉類・豆類など噛みごたえのある食材を取り入れ、一口ずつよく噛んでゆっくり食べる。
- 青魚(刺身等)のオメガ3系脂肪酸やビタミンB6を意識的に摂取する。
- 日常的な発声・口腔機能トレーニングと社会参加:
- 家に閉じこもらず積極的に外出や買い物を行い、自動精算機の操作など頭を使う機会を保つ。
- 会話、カラオケ、コーラス、朗読、声色を使い分けた絵本の読み聞かせなどを通じて、喉や口周りの筋肉を大きく動かす。
- 家族や友人と楽しく食事・交流を重ね、オキシトシンの分泌を促す。
- 防災グッズへの口腔ケア用品の常備:
- 帰宅後すぐに非常用持ち出し袋を点検し、避難生活時の誤嚥性肺炎予防のために歯ブラシや口腔ケア用品を常備する。
- 生活習慣の改善と学んだ知識の共有:
- 禁煙や日光浴(ビタミンD生成)を意識する。
- 口腔ケアと認知症・全身疾患の深い関わりについて、周囲の人や若い世代にも積極的に伝えて健康づくりの輪を広げる。
講師の枝広あや子先生は歯科医師で認知症と口腔衛生の関係に深い造詣をお持ちでありながら平易な語口でお話してくださいました。聴衆はベテランのシニア層が中心でしたが皆熱心にメモを取ったり頷いたりしていました。フレイル予防の日々の活動や定期的に歯科にかかり歯周病治療を行うことの大切さを認識しました。
イベント:つながるひろがる介護予防大作戦!inとしま2026
日時:2026年10月15日10時〜11時
講演:意外と知らないお口と認知症の深い関係
講師:枝広あや子先生
会場:としまセンタースクエア


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