9月16日大塚病院地下1階吹抜けホールで公開講座「気にしていますか?お口の健康」を聴講してきました。講師は口腔科医長の市川秀樹先生です。講義概要は以下の通り

本講演は、口腔科医長の市川秀樹氏が、口腔の基本的な機能から始まり、唾液の役割、歯周病のメカニズムと全身疾患への影響、そして日々のセルフケアの重要性について解説したものである。さらに、超高齢社会におけるオーラルフレイルの概念を紹介し、健康長寿に向けた口腔機能の維持・向上トレーニングを提唱する内容となっている。
口腔の多機能性と食事(嚥下)のメカニズム
講演の冒頭で、口腔が持つ「食べる」「話す」「呼吸する」といった多様な機能が紹介され、特に「食べる」という行為に焦点が当てられた。消化は「噛むこと」から始まるため、解剖書では「お口は消化のスタート地点」と表現されるほど、口腔は食べ物を砕くだけでなく、唾液分泌や味覚にも関わる多機能な器官であると説明された。動画や図解を用い、食べ物が口の中で咀嚼され、唾液と混ざり合うことで「食塊(しょっかい)」が形成される過程が視覚的に示された。この食塊形成は、歯で食べ物を押しつぶし、それを舌や頬の筋肉が歯の上に戻すという、まるで餅つきのような動作の繰り返しで行われる。最終的に、形成された食塊は舌の巧みな動きによって喉の奥へと運ばれ、食道へと飲み込まれる。この一連の複雑な嚥下(えんげ)のメカニズムは、無意識のうちに行われているが、非常に精密な制御に基づいていることが強調された。
唾液の役割と分泌を促すセルフケア
口腔機能における唾液の重要性が詳述された。唾液は1日に約1〜1.5リットルも分泌され、口腔内の浄化、消化補助、殺菌作用、そして歯の再石灰化といった多様な役割を担っている。特に、食事によって酸性に傾いた口腔内のpHを中性に戻す「緩衝作用」は虫歯予防において極めて重要であると指摘された。食後、口腔内が酸性になる時間帯は「デンジャーゾーン」と呼ばれ、この時間が長いほど虫歯のリスクが高まるため、間食を減らし規則正しい食生活を送ることが推奨された。また、「今日からできる健康法」として、唾液の分泌を促すためのセルフマッサージが紹介された。具体的には、耳の付け根にある「耳下腺」、顎の下の「顎下腺」、舌の下にある「舌下腺」を優しく刺激する方法が実演を交えて解説され、これにより飲み込む力も高まる効果が期待できるとされた。
歯周病の原因、全身への影響、および予防
口腔内に存在する細菌が引き起こす歯周病について、その深刻さが解説された。爪楊枝の先に付着する程度のプラーク(歯垢)には約1億個、手入れをしない人の口には2兆個もの細菌が存在するとされ、成人日本人の約8割が歯周病またはその予備軍であるというデータが示された。歯周病は、デンタルプラークという細菌の塊が原因で歯茎に炎症を引き起こし、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)を溶かして最終的に歯の喪失に至る感染症である。この過程では、細菌に対抗する体の免疫反応(サイトカインの放出)が、結果的に自身の組織を破壊してしまう側面もあると説明された。プラークが放置され、唾液中のカルシウムで石灰化すると「歯石」となり、セルフケアでの除去は不可能になるため、歯科医院での専門的処置が必要となる。さらに、歯周病は糖尿病や動脈硬化、骨粗鬆症といった全身疾患とも深く関連しており、口腔ケアが全身の健康維持に不可欠であることが強調された。
日常的な口腔ケア(ブラッシング)の実践方法
歯周病予防の根幹となる日常のセルフケアについて、具体的な方法が提示された。歯ブラシのみでのプラーク除去率は約60%に留まるというデータが示され、歯ブラシだけでは不十分であることが指摘された。プラークの除去率を大幅に向上させるためには、「歯間ブラシ」と「デンタルフロス」の併用が強く推奨された。効果的なブラッシングのポイントとして、歯ブラシは「柔らかめ」を選び、トマトを傷つけない程度の優しい力で、歯と歯茎の境目を狙って磨くことが挙げられた。また、磨き残しを防ぐために、上の奥歯から順に磨くなど、自分なりの順番を決めて実践することが有効であるとされた。推奨されるケアの順番は「歯ブラシ→歯間ブラシ→デンタルフロス」であり、この3点セットを毎日行うことで、口腔内の衛生状態を高く保つことができると結論づけられた。
オーラルフレイルの概念と予防のための筋力トレーニング
日本の超高齢社会(2025年には75歳以上が人口の18%、2060年には65歳以上が約40%を占める予測)を背景に、健康長寿の課題として「フレイル(虚弱)」と、その中でも口腔機能の衰えを指す「オーラルフレイル」の概念が紹介された。フレイルとは、筋力や活力が低下した「健康と要介護の中間」の状態であり、この段階であれば努力次第で健康な状態に戻れる可逆性がある点が特徴である。オーラルフレイルは、このフレイルの入口とも言われ、噛む力や飲み込む力の低下が食生活の変化を招き、やがて全身の虚弱につながる一連のプロセスとして説明された。その予防策として、しっかり噛んで食べ、社会参加を続けることの重要性が強調され、具体的なトレーニングとして「パタカラ運動」や、誰でも簡単にできる顔の体操(口を大きく開ける、舌を出す、飲み込む動作を繰り返す)が紹介された。これらの口腔筋力トレーニングを継続することが、健康長寿の鍵を握るとされた。
講義を聴講した感想は口腔ケアは体全体の健康に大きく影響しQOLを高める上で欠かせないものであるということであった。ただ食べるという行為以上が口腔ケアに結びついていると理解した。
日時:2026年9月16日 11:00〜11:30
会場:大塚病院B1F吹抜けホール



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